「もっと相手の話を聴きましょう。」
研修でも本でも、よく言われることです。しかし、なぜ私たちは相手の話を最後まで聴けないのでしょうか。
私は、その理由は「聴く技術」ではなく、ベクトルの向きにあると考えています。
ベクトルには二つあります。
一つは、外向きのベクトル。意識が相手に向いている状態です。「この人は何を感じているのだろう」「本当に伝えたいことは何だろう」と、相手への関心が中心になります。
もう一つは、内向きのベクトル。意識が自分に向いている状態です。
例えば、部下との1on1。
「30分、何を話そう?」
「1on1らしく進めるにはどうしたらいい?」
「何が正解なんだろう?」
「上司として頼りないと思われたくない。」
「アドバイスしちゃいけないと言われてもなあ。正解を教えてあげたい。」
こうした考えが頭の中を巡っているとき、意識は部下ではなく、自分に向いています。つまり、相手の話を聴いているようで、実際には自分自身と対話しているのです。つまりそれは、「心の中のおしゃべり」*が起こっている状態です。
でも、少し考えてみてください。
1on1は、上司がうまく話す時間でしょうか。
違います。
部下が安心して話せる時間です。
だから、「何を話そう」と考える必要はありません。上司が頑張って話題を用意する場でもありません。大切なのは、「今日はこの人は何を話したいのだろう」と、ベクトルを相手へ向けることです。
すると、不思議なことが起こります。
沈黙が気にならなくなり、相手の言葉だけでなく、表情や間、ためらいにも気づけるようになります。質問も、アドバイスも、「しよう」と考えて出てくるものではなく、自然に生まれてきます。
実は、会議でも、営業でも、家庭でも同じです。
私たちが本当に相手を理解できないのは、相手に関心がないからではありません。「失敗したくない」「よく見られたい」「正解を出したい」という思いが、無意識のうちに自分へベクトルを向けてしまうからです。
「話を聴く」は、テクニックのみでできることではありません。
まず、自分のベクトルがどちらを向いているのかに気づく。その瞬間から、対話は変わり始めます。相手を変えようとする前に、自分のベクトルの向きを変えてみる。それが、対話の第一歩なのです。
*INTEGでは、SIFワークショップで「心の中のおしゃべり」「自分の”いまいまの”ベクトル」に気づく方法をご紹介しています。



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