脳の最優先任務は「危険の早期発見」と考えられています。
人間の脳、とくに古い領域は、「危険」「損失」「異常」「予測不能」をいち早く察知することに特化しています。
そのため、「うまくいっていること」「問題のない状態」よりも、「うまくいっていない点」「足りないもの」「失うかもしれないもの」に強く反応します。脳が放っておくとネガティブな言葉を選ぶのは、それが「最も早く・安全に・楽に生き延びる方法」だったから。
私たちは仕事の中で、思い通りにいかない出来事や予想外の問題に日々出会います。その瞬間、頭の中に浮かぶのは「まずい」「失敗だ」「もう限界だ」であることが多いのではないでしょうか。これは気持ちが弱いからではありません。脳が危険や不確実性を察知し、自分を守ろうとする自然な反応なのです。
しかし、そこで一度立ち止まり、使う言葉を選び直すことができたらどうでしょうか。「失敗した」→「情報が一つ増えた」、「うまくいかない」→「前提が合っていない可能性がある」と捉え直す。すると脳は、評価や自己否定から離れ、状況を理解しようとする「観察」の状態へと切り替わります。
つまり、言葉を変えることは、「気分をよくするため」ではなく、「考え続けるための入口」なのだということになります。
このとき重要なのは、否定的な感情を無理に押さえ込むのではないということです。そうした感情を感じたうえで、「今の状況を別の角度から見るとしたら?」と問い直す。その行為自体が、「自分は出来事に振り回されるだけの存在ではない」という感覚を取り戻させてくれます。
この思考習慣は、特に経営者にとって大きな意味を持ちます。経営者がどんな言葉で状況を捉え、どんな問いを投げかけるかは、そのまま組織の空気になるからです。「誰が悪いのか」→「何が起きているのか」、「なぜできないのか」→「どこで止まっているのか」。こうした問いが自然に使われる場では、問題は隠されにくくなり、現場からの情報が上がりやすくなります。

フリップ文化がある組織では:
- 問題が「隠れない」
- 現場から情報が上がる
- 改善が小さく早く回る
- 会議が「正解探し」ではなく「状況共有」になる
これは「心理的安全性 × 思考の質」が同時に上がった状態です。
組織文化は、制度やスローガンだけではつくられません。日々交わされる言葉が、社員の思考の広がりを決めていきます。「前向きになるため」ではなく「考え続け、学び続けるために」言葉を選ぶ。その積み重ねが、しなやかで強い組織を育てていくでしょう。



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